みんなから“お母さんみたい”だと言われるんです。
業務用空調機器のメンテナンスや設備工事を取り扱う『株式会社USY』の若き取締役、中村香織さんは、はにかんだ顔でそう言って明るく笑ってくれた。
工場の無骨な煙突を背景に、貨物列車が行き交う街・根岸。有名観光地である中華街や元町からわずか駅2つ離れただけなのに、その風情は驚くほどに異なっている
そんな根岸の街の、駅からほど近い線路沿いに株式会社USYはある。
「もともと神戸に本社がある会社の、横浜支社という形でした。私の父がそこで社長を務めていた縁で、私も入社することになったんです。」
大学では日本文学や古典を学び、書道をやっていたという中村さん。理系分野は苦手で、機械とは縁のない環境で育ってきたそうだ。
「ただ、ネジや工具を眺めているのは好きでした。一口にネジと言っても、色々な大きさや形があるから、見ていて飽きません。また、家では父がよく職場の話をしてくれていたんですよ。和気あいあいと仕事をしている、アットホームな良い職場なんだなあ、と感じていました。」
公務員試験を目指して勉強していた大学四年のある日、両親から事務員としての入社を請われた。
「驚きましたけれど、母から『父を支えてあげて』と言われて。専門的知識はないけれど、事務だったら大丈夫だろうと軽い気持ちで面接を受け、入社しました。」

厳しい言葉をバネに、必死で勉強
しかし入社後、中村さんは数々の試練に直面することになる。
「基本的に男所帯なので、社内のサービスマンも、取引先のメーカーの方も、みんな言葉が荒いんです。またお客様から電話がかかってくるときは、基本的に『機械が動かない、トラブルがある』といったクレーム。最初のうちは、電話を取るのも苦手でした。」
また取引先のメーカー担当者から、厳しい言葉を投げつけられたこともあるという。
「急ぎの見積書を依頼されたのですが、そのときはまだ見積書の作成方法を教えてもらっていなかったんです。ちょうど、指導していただいていた先輩社員の方がお休みの日で。『そんなこともできないのに、あなたが会社にいる意味があるの?』と言われてしまったんです。それが本当に悔しくて……。マニュアルを読んで、なんとか書類を作って送りました。
その他にも、わからないことだらけでアタフタすることもありましたが、負けず嫌いなので『全部完璧にしてやる!』と思って、とにかく勉強しました。お客様からお電話いただいたとき、日程調整の話の流れで機械についてのちょっとした質問を受けることがあるんですが、そのときに『サービスマンに確認します』では、お客様にもサービスマンにも負担になりますよね。だからサービスマンに質問したり、メーカーの仕様書を読んでそれをノートにまとめたり。まるで試験勉強みたいですが(笑)。
そうそう、その後、キツイことを言われた方にお目にかかった時に、『中村さんは根性があるね』と褒めていただいたんですよ。嬉しかったです。」

サービスマンが、現場に集中できるように
現在の中村さんの主な仕事は、電話応対やスケジュールの調整、物品の管理や書類の整理、依頼先へ提出する“完成図書作成の補助”多岐にわたる。
「私は現場に出たり、図面を書いたりすることはできません。だからサービスマンが現場作業にだけ集中できるよう、それ以外の雑用はすべて引き受けています。現場が立て込んでいるときに緊急の対応が入ったときは、お客様とメーカー担当者、サービスマンの間に立って調整役を務めます。ミスが出ると、お客様に迷惑をお掛けすることになる。でも忙しいときは、みんな疲れているから、どうしても言葉がキツくなります。そんなときもイチイチ落ち込まずに、お互いの状況を踏まえて、足りないところを補うよう心がけています。」
細かな雑用は、スタッフから依頼される前に自分で考え、積極的に片付けていくのが中村さんのやり方だ。
「忙しい時期は、私に『コレをやって』と依頼するのさえ面倒に感じますよね。だから私の方から『コレがまだなら、私がやります』とか、『アレは出来ましたか?』など確認して、サービスマンが仕事を溜め込まないよう、先回りして“奪う”んです(笑)。現場に必要な資格のなかには期限内に更新する必要があるものもあるのですが、うっかり忘れてしまう人もいる。そういう細かいスケジュールを把握した上で、広い視野を持って全体がスムーズに回るよう常に一歩先を考えて、自分ができることはどんなことでもやりたい、そう思っているんです。」

女性らしい細やかな作業が、現場を支える
10名いる社員のうち、中村さん含め女性は2名。いずれも事務担当だ。
「男性ばかりの職場なので、いわゆる“男子校ノリ”というか……。休憩時間などは結構キワドイ話が飛び交っていたりもします。私は弟が二人いるので、そういう状況に慣れてはいるのですが、最初のうちはビックリしましたね(笑)。今ではだいぶ逞しくなったので、どんな話題でも笑ってスルー出来るようになりました。」
男性ばかりの職場の中で、女性らしい気遣いや細やかさが要求される場面も多くある。
「交渉事というか、クレーム対応などの連絡のときに、『女性から言ってもらった方がスムーズだから』と頼まれて、私が電話することもありますね。女性がやわらかい口調でお願いごとをしたほうが、上手くいくことが多いんですよ。でももちろん、柔らかい言葉をつかいながら、言いたいことはシッカリ言うし、通したい要求はキッチリ通します。
また書類の作成やデータの整理など細かい作業は、女性に向いていると思います。コツコツと地味な作業ですが、提出期限がタイトなものも多く、とても大変。でも一つひとつの作業を正確かつ丁寧にすることで、お客様にご満足いただける。メーカーの担当者から『中村さんのような人がいてくれて良かった』と言ってもらったときは、『頑張ってよかったな』と実感ました。」
また現在は、『劇物毒物取扱責任者資格』の取得に向けて、苦手の化学に取り組んでいるという。
「理科は本当に苦手だったので、元素記号を見ているだけで眠くなっちゃうんですよ(笑)。でも、苦手だからと言ってやらないわけにはいかないので、しっかり勉強して合格したいと思います!」

業務を拡大し、さらなる発展のために
株式会社USYは、2014年3月に親会社から独立した。
「父が病になったり、色々変化があったんです。激動の年でした。 父が社長を退くことになってその父と一緒に働いていた岡本が社長になり、支社のスタッフの半分がそのままついていく形で独立しました。」
独立後は、社員が一丸となって、会社をより発展させようと張り切っている。今年からは中村さんの弟も入社し、現場に出て修行中だ。
「今はメーカーから依頼される保守メンテナンスが主ですが、それだとメーカーの状況に左右されてしまいます。今後は空調だけでなく、業務を拡大して水道や電気設備などすべてをやれる会社にしていきたい、というのが社員みんなの目標です。そのために、やるべきことはたくさんありますが、前に進んでいきたいと思います。」
中村さんの穏やかな笑顔の中に、取締役としての責任感と、未来に対する強い意志が感じられた。


なかむら かおり
中村 香織
株式会社USY 取締役
株式会社NTサービス 取締役
中村 香織さんが働く株式会社USYではこんな方を求人しています
※現場は主に神奈川県内
※会社カレンダーによる